2011年8月10日水曜日

父の臨終〜葬儀顛末日記 ーその2ー


2011年07月31日(日)
6時半起床。晴天夏日。兄夫婦、二人の甥とで会館近くのファミレスで朝食。不謹慎かもしれないが、このあたりから、なんだか兄家族と共にちょっとした旅行気分になってきた。父を看とることができ、ごく穏やかな旅立ちであったことへの安堵感があったからだろう。

兄が母方の親族等へ連絡。通夜を8月1日午後6時から、葬儀を翌日2日の午前10時から行うことにした。兄との相談の上、香典、献花、供物の類はご遠慮いただくことにした。父は非常識な人ではなかったが、儀礼的なことはあまり好まなかったところがあった。

会館に通夜、葬儀両日の介護タクシー手配してもらい、僕とオクさんが母の送迎係を務めることに。

午前中、会館の父の棺が安置されている部屋で女性二人の湯灌師による「湯灌」の儀式が行われた。本木雅弘主演の映画「おくりびと」で一躍脚光を浴びた「納棺師」であるが、職業名としては「湯灌師」が正式なようだ。

足付バスタブ状の湯灌専用の浴槽に遺体を移し、遺体には黒地に桜の花びら模様の布が被され、まず、手桶からひしゃくで親族が順に遺体にお湯をかけていく。足先から胸元にかけてという手順。お湯は階下からホースで窓を伝い汲み上げる方式。

その後、顔剃り、全身の清めが終わると、遺体を浴槽から布団の上に横たえ、経帷子を着せ、手甲、脚絆、頭陀袋(六文銭を入れる)等のいわゆる死に装束を纏わせる。三途の川の渡り賃といわれる六文銭は紙でできたものだった。「子ども銀行」の万札を持たせたら? というジョークが出かかったが、口には出さなかった。

湯灌師から、「90歳という高齢にしてはお肌がしっかりしていてとても若く見える」と言われた。父の裸体は、ほぼひと月の点滴のみの栄養補給故、やせ細っていたが、骨付きはしっかりとしていて、確かに肌にも高齢にしてはそこそこの張りがあった。父は、かつての村山元首相とまではいかなくても、まっ白な眉毛がふさふさとしていて、記念に父の眉毛で筆を作ったらいいかもしれない、と思ったが実行には移さなかった。

亡くなった直後、病院でも死化粧が施されたが、ここでも同様なファンデーションを使ってやっていただいた。男の場合は顔色保持ということがメインだろう。この段で、「ご親族の方々はご遺体から視線を外してください」と湯灌師に言われ、父の遺体から視線を外した。しばらくして「もう、よろしいですよ」と言われ、父の顔を見たら、やや開き気味になっていた父の口がしっかり閉じられていた。死者の顔を整え、口を閉じさせる作業のようなことをやっていて、それは親族に見せるべきではないような動作もあるのでは、と想像した。

父の顔は既に生前とは大分面変わりして、なんだか蝋人形のようだったが、表情に苦悶の跡は一切なく、ごく穏やかであった。遺体を棺に戻し、父が晩年着用していた眼鏡をかけてあげたら、だいぶ生前の父らしくはなった。

午後、母のいる特養へ全員で向かう。母はさすがに気落ちしていて、昨夜はほとんど眠れなかったと言う。「これからどうしてええか、わからんよ」と。まあ、それは父が生前からの母の口癖。前回帰省時に運び込んでいた母の喪服、靴などをチェック。母や特養の職員に明日の日程を伝える。

実家へ棺に納める父の遺品関係をチェックするため、特養の職員にタクシーを呼んでもらうが、すぐに来るべきタクシーは隣接しているケアハウスと特養を混同し、30分以上も待つことになる。ようやくタクシーが到着、実家へ。用を済まし、全員で食事をするためバスで下関駅方面に向かうが、途中、実家に忘れ物があり、兄と僕が下車し、実家に戻り、再度バスで駅に向かうことになった。

そんなわけで、当初の予定より遅れ気味に駅に到着。その足で、兄と駅ビル内判子屋で母の実印を作るための印鑑購入最中、後から声をかけられた相手が、下関駅に到着したばかりの僕のオクさんだった。彼女はちょっとした買い物のため、駅ビルに立ち寄ったところ、判子屋の前にいる僕を見つけたらしい。

僕は携帯を持っていたが、オクさんは持っていない。オクさんには駅に到着したら携帯に電話をするように伝えていたが、できれば一緒に食事をしたかったのだ。こうしてばったりと駅ビル内の雑踏の中で落ち合うとは、前夜の兄の次男との遭遇のタイミングといい、アクシデントが重なってぴったりと符合するこのタイミング、これもまた父の導きに違いないと思った。

その後、駅ビル内の中華料理店で兄の家族、僕たち夫婦全員で和やかに夕食。これから通夜、葬儀を目前とした親族とは思えないごく陽気な食事会となり、これも父の人徳のなせることと感謝したい気持ちになった。

食事後、葬儀会館に戻り、オクさんは棺の中の父と対面、兄家族は四人用のベッドがある部屋、僕たちは二人で安置されている父の側に布団を敷き、寝た。この日もぐっすり眠れた。


画像上左:湯灌最中
画像上右:死出の旅支度、手っ甲をつけさせ、数珠を握らせる。
画像下:遺族で脚絆をはかせる。

0 件のコメント: